なんとなく朝起きて、なんとなくバイト行って、なんとなく帰宅して、なんとなくテレビ見ながらボーッとして。
そんな何となくの日常に流されるだけの日々を送っていると、ある日とてつもない絶望感に支配されることがある。
待って・・・。私はいったい何がしたい?
何のために生きてる?何をやってるんだ毎日。
これからもずっと死ぬまでこの“何となくの毎日”が続いていくのか?嘘だろ勘弁してくれよ。
そしてその絶望感を知った者は、初めてそこで本当の意味で、他人の背景に対して興味を持つ。
「そういえば皆、どうやって生きてるんだろう?」そこからが本当のスタートだと私は思う。
今回紹介する漫画ヒメアノ~ルの主人公の岡田君は、20代半ばの掃除のアルバイトをしているフリーターだ。
漫画の冒頭は彼の将来への絶望した心の内から始まる。
******
床を拭く。これが僕の仕事。
ゴミを運ぶ。誰かがつけたガムを剥がす。
僕は、不満だ。
何に不満かというとこの何もない毎日に。
何者にもなれず、何かを成し遂げようと言う気配すらない。ただ馬鹿みたいな時間が流れるだけで。
1日はとてつもなく長いのに、一週間ともなるとあっという間に過ぎ去っていく。判で押したような毎日が繰り返されるだけだ。
街行く人が、皆楽しそうに見える。まるで僕だけが寂しい夜を過ごしているみたいだ。
やりがいのある仕事や、将来の夢、一緒に生きる大切な人。きっとみんなそれを持ってるんだ。
僕にはそれがない。
(ヒメアノ~ル1巻冒頭より引用)
******
どうだろうか?どうやって生きていったらわからない者にとっては魂が震えるほど共感できないだろうか。
そんな岡田君はある日、同じバイト先のおそらく30歳を超えているであろう何とも小汚いおっさんの安藤さんに興味を持つ。
この人・・・明らかに僕よりコミュニケーション能力低そうだし、彼女もいなさそうだよな。
“この人はいったいどんな毎日を送っているんだろう?僕と同じ仕事をこなした後、彼は毎日どう過ごしているんだ・・・?”
そう思った岡田君はその日の帰りに一緒にご飯を食べないかと安藤さんを誘ってみる。そして二人は初めてファミレスで机をかこむ。
「あ、安藤さんは彼女とかいるんですか?」
いないよ。
「じゃ、じゃぁ没頭できる趣味とかは」
ないよ。
「安藤さんはいつも仕事終わった後何してるんですか?」
そうゆう岡田君は何かしてるの?
「ぼ、ぼくは彼女もいないし、新しい友達もいないし、とにかくヤバイんです。毎日ダラダラして。そのくせそれを不満に思ったりして・・安藤さんはないですか?」
何言ってんだよ岡田君、人はみんな不満なんだよ。
もっと言えば不満や不安がないとみんな生きていられないと思うよ。
だってそれを少しでも無くそうと毎日頑張ってるんじゃない。
そして残念なことに不満とか不安にはキリがないんだ。そこそこ満足してもすぐ次の不満が現れる。ずっとその繰り返しだ。
完璧に満足してる奴なんて多分この世にいないよ。どんな金持ちでも、どんなにモテモテでも、みんな何かしら不満なのさ。
だから岡田君、きみは変じゃない。いたずらに自分をいじめちゃだめだ。
∑(゚Д゚)っハ!
あ、案外良いこと言うじゃねえかこのおっさん。。
そして、そこで岡田君は自分自身の汚い心にも素直に気づく。
そっか僕は・・・安藤さんを見下して今日誘ったんだ。きっと僕は自分よりダメそうな人を捕まえて「俺の方がきついよ~」という話を期待してたんだ。
そしてそんな岡田君に何と安藤さんは、自分自身の人生が今いかに煌めいているかについて自慢げに漏らす。「俺はね、岡田君。毎日、ものすごく恋をしている」
そこから物語は安藤さんの恋に話が移っていくのだが、それが何とも面白い。
モテない安藤さんは、モテないながらも常に全力で、自分の頭で考え、そして行動し、自分という人間を使って最大限に人生を楽しむ努力をする。
その姿は何とも頼もしく、たとえその手段が世間的には間違っていたとしても、動物的には正しい、と私は思う。
犬や猫が自殺をしないように、本来人は誰の人生と比べることもせず、ただ自分という人間を愛し、思う存分楽しませてやらなきゃならない。
そしてそれができる人間は、その人が本来もちうる最大限の魅力を放つから、それを嗅ぎつけることができる人間だけが気づくと周りに集まり、結果として本当に満足のいく人生へと繋がっていく。
安藤さんにはそんな魅力がある。
そしてこの物語のもう一つの魅力は、飽きさせないテンポにある。
この安藤さんの恋を軸とした物語の他にも、実はさまざまな「マジかよ!どうすんのこれ?」というような
急いでページをめくりたくて仕方なくなってしまうような出来事が並行してポンポン起こる。
そしてその全ての出来事は実は複雑に絡み合い、結果として大きな物事を動かしていく。バタフライエフェクトみたいに。
地球の裏側の一匹の蝶の羽ばたきが、巡り巡ってどこかの知らない土地でとてつもなくでかい手のつけられないほどの巨大な竜巻をおこす・・・。
しかもそれがたったの6巻で驚くほどスピーディに展開してシュッと始まってヴァっと終わる。
何も変わらない毎日への絶望を感じている人には死ぬほどおすすめな漫画です。
是非とも死ぬ前に、一度は読んでほしい。きっと人生のスパイスになるから。