【高大家の人々・森本 梢子】
「それって、楽しみながらやることってできないの?」
話の隙間に、いきなりそんな一撃を差し込まれた時、わたしは久しぶりにハっとした。
「あなたが今、何をやりたくて、何を叶えたいと思ってるのか私にはわかんないけど・・・たぶんそれが何だったとしても、あんまりシリアスになんない方が良いよ~。」
・・・。
「人間ねぇ、歳取るとシリアスに考えすぎるようになるの。でもねぇシリアスになったって別に良いことなんてなーんもないのよ。」
「あなたが今やろうとしているものって、楽しみながらでもできるんじゃないの?」
・・・(゚Д゚)!!!!!
週2で通っている貸本屋さんの女主人にそう言われると、何だか急にそんな気がしてきて、空也上人の銅像みたいに口からぽこぽことシリアスが抜けた。
でも、じゃあ、どうしたら良いんだ・・・?気を張って頑張るなってこと?でもそれじゃ何にも進まんくないか?と、さらにはてなマークを口からぽこぽこ出産しまくる私に
「はいはい。これ、読んでみると良いかもよ。」と言って勧めてくれたのは「高台家の人々」という少女漫画だった。
「少女漫画ですか?高校生以来読んでないかも・・・」
「これ読むとねぇ、なんかもうちょっと物事柔らかく考えられるようになるかも。面白いし、今のあなたには、良い勉強になるかも。」
ほう(°_°)
と、いうことで久しぶりに全6冊で完結の「高台家の人々」という少女漫画をチャリンコのハンドルにぶらぶらぶら下げて、帰宅したわけだが・・・
これが・・・まぁー面白い!何がどうなったとしても、これからの人生を、気持ちよく生きていくためのヒントそのもの。
人間、どうせ同じ寿命を生きるなら、どんな状況でどんな問題にぶち当たっていても、脳内楽しませたもんがち!
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主人公のキエは、普通のサラリーマン家庭で育った、これと言って何の特徴もない、地味~なもうすぐ30歳をむかえようとしているOLだった。
そんな彼女が働いている会社には、女子社員みんながハイエナのように目をギラッギラに光らせて、今か今かと狙っている獲物、イケメン・エリート社員が一匹いた。
そんなもてもてイケメン・エリート社員の彼は、モテるのだが、なぜだか自分から人とあんまり深く関わろうとしない。
なぜなら、彼には誰にも言えない秘密が一つあった。
テレパス。それは、人の考えていることや思っていることが、まるで映画館のように脳内に流れこんできてしまうという能力。
彼は生まれた時からそれを備えていて、今まで
人の良い部分も、嫌な部分も見てきて、疲れきっていた。
そんな中、ある日。キエと、そのイケメン・エリート社員の男が、エレベーターでたまたま一緒になる。
すると彼の脳内にびっくりするような映像が流れ込んでくる・・・。
この女・・・おもしれぇ!!!!
今まで見てきたどんなやつよりも脳内いかれてやがる!!!!
いつしか彼は、彼女の脳内に広がる妄想ストーリーの虜になり、会社で彼女を見かけるたびに
後ろからこっそり近づいてっては、その濃すぎる世界観に引き込まれるようになっていく・・・・。
(高台家の人々より引用)
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めちゃめちゃ笑った。妄想のセンスが、何とも言えない。
でも、すごいのはそのセンスがどう・・とかよりも、そのバカ馬鹿しい妄想によって、実際に目の前の問題を、乗り越えてしまうところにある。
たとえば、結婚を考えていた人にふられた、とか。
どうしても入りたかった会社の面接に落ちた、とか。
普通の人だったらジメジメと落ち込んでしまうようなところも
彼女は落ち込みつつも、その落ち込みを入り口に、ぷくぷくと妄想をふくらませ気づくと勝手にそれからの出来事をストーリー仕立てにして、最後は必ずバカバカしくまとめ上げてしまう。
その精神的な生命力たるや・・・。
見ているこっちが、笑いと勇気を同時にもらえるような、あー良いなぁ。こんなふうに乗り越えられたら人生楽しいことしかないや!とか思ってしまう。
無理に笑わなくてもいい。
でも、シリアスに考え込んで立ち止まるのと、楽観的にできることを見つけて力を注ぐのとだったら、たぶん後者の方が結果として良い方にも転がっていくのではないだろうか。
もしも、物事や将来を重く考えすぎてしまう時期がきたら、おすすめの作品でございます。(映画より漫画の方が人気らしいです。)
いったん全身の力をぬいて、もういちど世の中を軽やかに泳いでいくためのヒントとなる物語。