【逆転力・指原莉乃】
「なんか本好きな人と友達になりたいなぁ。」
そんなことをふと思い、ネットで「読書会・募集」と検索してみたところ、数件がヒットした。
その中の、なんとな~く良さそうな募集に、なんとな~く応募してみた所。
すぐさま丁寧な返事があり、参加してみることにしたのである。
当日、指定された渋谷のやけにオシャレなカフェの重たい扉をあけると
そこには、50歳前後の白髪混じりの大柄な男性が一人、ぽつねんと座っていたのである。
「こんにちわ、今日は僕とあなたの二人だけです。」
・・・っえーーーーーーーー!
心は叫んだ。
だってさ、読書会ってさ、会(カイ)ってついてるくらいだからさ、もっとこう皆んなでワイワイするもんなんじゃないの?違うの?
「嫌だったら、帰っていただいてもいいですよ。」
そんなふうに言われて「あ、はい。」って帰れるわけないだろうよ。
と思いながらも「あの、よろしくお願いします。」と言って、私は極めて紳士的なふるまいでもって、ズズズと椅子をひいたのである。
彼は自らのことをミスターエムと名乗った。
あの。これ本当です。
本当にミスターエムと名乗ったんです。笑
あ、失敬、正確にはMr.Mでした。
それはさておき、そんなミスターエム氏。
びっくりするくらい早口で、何を言ってるのかさっぱりわからなかったが、どうやら時代小説が好きということだけはわかった。
マシンガントークで繰り広げられる時代小説への熱に、途中で上の空になりかけた私だったが、ふとこれだけは聞いとこうと思って切り込んだ。
「あの、ミスターエムさんはどうして本が好きなんですか?」
「あ、僕はですね、昔から両親が仲悪かったんですね。だから子供の頃からよく近所の図書館に逃げ込んで、本を読んでたんですよ。」
意外にセンチメンタルな理由だった。
「僕にとって本はドコデモドアなんです。」
その瞬間、私はビクッとした。前日に全く同じことを、私は友達に話していたのである。
「わかります。ドコデモドアであり、タイムマシーンですよね。」
その瞬間、二人は初めて同じ温度で大きく頷いた。
ここだけ頷ければ何だか今日はもう良い日な気がして。
私はそれから2時間、ひたすらエム氏のマシンガントークに鼓膜をささげることにしたのだった。
会が終わって店を出ると
「あ、あの!これからも現地集合・現地解散で、定期的に本について熱く語りませんか!」
「あ、あとこれだけは絶対!自宅とか個人情報については、一切詮索致しませんので。あ、はい。」
「またおすすめの本見つけましたらライン送るかもしれませんが、嫌だったら既読無視、全然構いませんので!あ、はい。でわ、私はこれで!!」
さすがである。
エム氏はこちらに一切の隙も与えることなく、そそくさとお辞儀をしたかと思うと
そこら辺の忍者よりも早い足取りで、シュタタタタタタと夜の街へ消えていったのであった。
ピコンっとラインが入ったのは、それから二日経ってからのことだ。
いくつかのおすすめ本のリンクと共に、丁寧なメッセージが添えられていた。
私は返した。
「先日すすめていただいた江戸川乱歩の心理実験、読了しました。あの、もしよければミスターエムさんのおすすめの、気持ちが前向きになれるような本があれば教えていただけませんか?」
2週間後。
私たちはまた読書会と銘打って「おっさんがおばさんに一方的マシンガントークを発砲するの会」を開催した。
その中で、エム氏は「先日いただいたメッセージに書いてあった前向きになれる本とのことなのですが、私なりに悩んでいくつかピックアップしました。」
と言って、A4用紙7~8枚ほどにまとめられた大量の本の情報を私に差し出した。
マジなの?こんなに?
と思いながらもちょっと興奮しつつ、ペラペラめくってみると、その中にAKB48の指原梨乃さんの本があった。
「指原さんの本なんて読むんですね。」
「指原はいいですよ!!あのね!!彼女はですねっ・・・!!」
キタキタキタキタ。
そっからはもう言うまでもなくエム氏の指原熱を、目の前が熱気でぼやけるほどの風圧でもって、わが鼓膜に染み込ませたのである・・・
んが、それはそうとて。
50歳のおじさんが、こんなにも熱い思いを抱く22歳の女の子って・・・いったいどんな魅力の持ち主なのだろう?(この本が発行された時点)
そんなことをぼんやり思いながら私は帰りの電車で、一人ポチッとAmazonの購入ボタンを押したのである。
“一晩寝て起きた次の日には、すっかり気持ちを切り替えていました。誤解されがちなんですけど、反省しないんじゃなくて、元気になるのがすごく早いんです。(逆転力 p76より引用)”
誰もが人生で一度は「おわった・・・」という経験をしたことがあると思うが
彼女にも大きな「おわった・・・」がある日突然やってきた。
かなーり前の話だから、あんまり覚えている人も少ないかも知れないが。
まぁ簡単にいうと、恋愛禁止のアイドルグループの決まりを「お前、やぶっとるやないかーい!」という記事が出回ってしまったのである。
(どこまで本当かはわかりませんよね。私は芸能ニュースをほとんど信じない派です。)
まぁでも普通だったら・・・
飛んでくるやじや、怖い大人の「お前やってくれたな」感に、間違いなく精神的命日をむかえるところ。
彼女はびっくりするくらい、起き上がるのが早かったのだ。転んで立つまでのスピードが尋常じゃない。
覚悟の据え方がそこら辺の女とは桁違いなのである。
“ 私は、どんな時でもラッキーを見つけるのが得意なんですよ。(指原莉乃・逆転力より引用) ”
これからの私を見ててください、言えることはそれだけですから。
この清々しいまでの潔さは、令和の女武将とでもいうべきか・・・?
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“一生懸命探せば、ラッキーってどこにでも見つかると思う”
ここでいうラッキーというのは、ものすごく具体的なものだ。
それはいわゆる
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まずは、日々の小さな幸せにも喜びを感じましょう。あなたは現在ある幸せにきちんと目を向けていますか?
道端に咲く花や、育ててくれた両親、この世の全てのものにまずは「ありがとう」そう心から思うことで宇宙は必ずあなたの味方を・・・
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的な宗教チックな自己啓発本のことではない。(なぜいつもすぐ宇宙がでてくるのだろう、、)
大事なことは、いつだってシンプルだ(`・ω・´)
今、ここで、目の前にある人や環境を使って。
どうやったら面白くなるか、自分も人も楽しませることができるか。
まずはいったん、そこから目を逸らさずに、「今ある持ち物の中で考えてみようや、お前さんたち」ってことなのではと、私は解釈した。
そうするとね、不思議なことに。
あれ?このメンバーならこんなことできんじゃね?
あの場所使えんならあれもできんじゃん。
ラッキー!
というふうに、今あるものの中でラッキーが見つかる。
これがきっと指原莉乃さんのいう「一生懸命探せばラッキーはどこにでも見つかる」ということなのでわ、、、?と。
ただし、おそらくその核は「一生懸命さがせば」にあるとも思う。
これが私を含め、多くの人が結局はなかなかできない部分なのである。
ラッキーというのは、清く正しく朗らかに、良い人風の生活をしてればある日とつぜん天から降ってくるというものではなく
「ラッキーを掴むと決めて冒険にでた者」にのみ、ソリャッと転がってくるようにできている。
これこそが俗にいう「引き寄せの法則」のリアルガチ版なのではないかと私は思う。
「引き寄せ」なんていう言葉を使うから、胡散臭さが漂うだけで。
「魅力的なものや現場を一生懸命作ろうとしている人間」に、ファンやお金が集まらないわけがない。
きっと人が本当に応援したくなる人間というのは、いつだって呆れるほどにシンプルで、かっこ悪いほど一生懸命なやつなのだ。
かっこ悪いほど、なにかや誰かに一生懸命なやつ。
それを人から見てわかるように表に出すかどうかは別として。大事なのはきっと、そうゆうものを、どこかに内包しているかどうかな気がする。
これはもう時代を問わず普遍的なもののように思う。
けっきょく、かっこ悪いが実は一番かっこいいのでは・・・?
この本を読むと、そんな気持ちになる。
だって、みんなそれができないから。
かっこ悪いを選べないんだ、私たち人間はなかなか。
そこが本当に、指原さんのすごいところで。読んでいて心のそこから敬意が溢れる。
“ピンチの時に前向きに頑張っていると、周りの人が評価してくれるんです。”
“ピンチをネタにして笑いにしていると「すごいね」って言ってもらえる。”
“ピンチの時って評価のハードルが下がっているんですよ。それで得してるんです、私。ずるいんです。(逆転力より引用)”
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何ということであろうか。
ふいに思い立って応募してみた先で出会った、ミスターエムというあまりにも謎めいた機密組織の幹部みたいな名前のおじさんの紹介で・・・
私は今、はげしく心を動かされている。
これだから出会いは不思議だ。本も、人も、けっきょくは出会いだ。
そして思った。
こうゆうのって、もしかしたらつまんないかもしれない、損かもしれないという物の中にこそ、潜んでいるのでわ・・・
「うーん、どうすっか。ま、いっか」・・・と飛び込んでみた先にこそ見つかる、というか。
もちろんハズレの方が多いことは、百も承知で。笑
これもきっと一つのラッキーの捕まえ方・・・なのかも、、、?
そんな私は、実は明日ミスターエム氏と美術館に行くことになっている。
なぜだか理由はわからないが、今から楽しみで鼓膜がウズウズしている。