【別れる力・伊集院静】
ついこの間、縁が一つ切れた。
おそらく連絡が来ることはもうない。
わりと深めの縁だったので切れた瞬間は死ぬほど切ない気持ちになって、何とか傷つかずに繋ぎ止めておく方法はないものかと あれこれ考えてみたりもした。
でも、やっぱりそんな綺麗事でまとめられるような ちょうどいい位置なんてものはないから
そこはやっぱりグッと腹を据えて、すがらず貰ったものだけを見ることにしよう、と。
その人とした会話だったり、聞かせてくれた物語、そうゆうものを共有した時間だけに ただただありがとうと
いさぎよく前をむいて、生き・・・・
くっそ!!できるか馬鹿野郎!!
そんな立派にできてたら人間なんも苦労しねぇわ!!
ぶるぅぅぁぁあっ!!
っと。
どうやら脳内を、朗らかな菩薩とヒステリックなババアが行ったり来たりしているようだ。
少しおちつこうか、私。
まあ、そんなこんなで脳内に菩薩とババアを同居させ始めたここ最近の私だが。
一週間前、たまたま用事があってふらっと立ち寄った図書館で 思わず足を止めてしまった。
「別れる力」
それは、入り口の自動ドアの前に小さく設けられた「ご自由にお持ちくださいコーナー」にちょこんと置かれていた。
・・こ、これは・・・持って帰らねば。
そう思うとなぜだか私は急にコソコソと DVDでも万引きするかのような手つきで それを手にとり鞄に入れた。
「 別れる力・伊集院静 」
“ 親しい人を失った時、もう歩き出せないほどの悲哀の中にいても、人はいつか再び歩き出すのである。歩き出した時に、目に見えない力が備わっているのが人間の生というものだ(別れる力より引用)”
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「別れ」
と一口に言っても色々ある。
でもやはりその中でも「死別」は他のものとは違うように思う。
この本では、著者である作家の伊集院静さんが 実際に体験した死別がいくつか出てくるが
中でもやはり、実の弟さんを 海の遭難事故で失った話は、読み終わって二週間経つ今もはっきりと残っている。
弟さんが事故にあったその日。
同級生のO君は、隣町に引っ越していたにも関わらず わざわざ台風の中かけつけて、捜索を手伝ってくれた。
O君は、地元では「どこか人をバカにするいけすかない奴」としてあまり好かれていなかった。
見つからないまま7日経ったある日、O君は言った。
「きっとどこかで生きとるって。ひょっこり戻ってくるんじゃないか。」
そういうとO君は「わしな、」と言って、数年前にトラックの事故で 妹を亡くしていたという話をしてくれた。
初めて聞く話だった。
「そうか、そんなことも知らんで・・・」
「ええんよ。明日もくるけぇ。」
O君はまた黙って捜索を手伝った。
“私たちは経験したことで何かを知る。何かとは、生きることである。経験と書いたが、それは時間と言ってもいい。生きる時間は常にそういうものとともに歩んでいく( 別れる力 p.15より引用)”
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なぜだろうか。
これは私自身の周りを見ていても、たまに思うことなのだが。
かけがえのない人を失ったことのある人間というのは、なにか持っているように思う。
何を・・・と言われてもなかなか表現できないのだが。
その境地に立たった者しか絶対にわからないものを、得てきて戻ってきているように思う。
心理学で言うところの共感だとか傾聴だとか、そんなものではどうにもならない部分にある 人間のどうしようもなく深く黒い悲しみに、本質的に寄り添うものを 体の内側から知っている感じ・・・
私も何度か死別を経験したが、一つだけ今でも残っているものがある。
思い出すたびに「ほんと、生きてるってなんなのだろうか」と永遠の謎に思いを巡らす。
そんなこと考えたって意味ないよ、とむかし誰かに言われた。
そんなことは私もわかってる。
でも、そんなこと考える人が 私は好きなんだ。
「そんなこと考える人」とは、なぜだかすごく仲良くなれるから。
“最愛の人を亡くして絶望の淵にいても、時間はいつかその気持ちをやわらげ、新しい光さえ見せてくれる。
ましてや死別でなければ、それぞれ平気で生きて、相手の知らぬ場所で大笑いもする。(p50より引用)”
この、相手の知らぬ場所で大笑いもする。
ってのが、なんかちょっとリアルでなんとも切ない所だが・・やっぱりそうでなくちゃな、とも思う。
笑ってなくちゃ、やっぱり、人は。無理にとかじゃなくてさ。
今、目の前にいる人と「良い時間だったな」と思えるような時間を過ごすこと。
それだけが、これからの全てだ(`・ω・´)
不思議なことに人は良いイメージで終わった人とは時間が経ってもまた会いたくなる。
誰と会って何をしても、次の日にはビックリするほど 何話したかなんてのは忘れてしまうが
「どんな感情だったか」だけはなぜかずっと残る。
どうせ死ぬ時に残るのなんて、思い出だけなんだから。
心を動かしてくれる人をやっぱり大切にしたい。
そして今までたくさん心を動かしてくれた人に。
どうかどうか。私の知らないところで馬鹿みたいに笑っていてほしい。