「あのですね。自分は今、うんこの方をしたいんですけれども・・・。もしよろしければそのー・・・。して来てもよろしいでしょうか?」
一度でも。
今まで・・・
たった一度でも。
声に出して「うんこを出す許可」をもらったことがある者はいるだろうか?
私はない。間に合わなかったことは少々あるが、許可をもらわないと出せなかったことは一度もない。
何らかの罪を犯し、そこで生活しなくてはならなくなってしまった者たちの実にリアルな日常が描かれている。
そしてこれはフィクションではなく、花輪さんが実際に捕まってその目で見てきた記録なのである。(拳銃が好きすぎて、本物をいくつも所持していたため捕まった。)
その中で私が最もビビったのは、自己申告性のうんこシステムである。
「願いまーす!願いまーす!」
「どうした?」
「用便願います!」
「ちょっと待ってろ。」
「はい!」
「・・・よし、いいぞ。」
何が、よし、いいぞ・・・なのだろうか。
しかも、刑務所によっては用を足したあと、また願わなくてはならない。
「願いまーす!願いまーす!」
「どうした?」
「水流し、願います!」
「ちょっと待ってろ。」
「はい!」
「・・・よし、良いぞ。」
・・・やめろ。その、よし、良いぞ。やめろ。笑
そう。
この作品に出てくる刑務所では、用を足すのにも一回一回許可を取らなくてはならない。
なぜならそれがそこでのルールだから。
申し訳ないけど、思わず笑ってしまう。
たまらんなー。と思いつつも。
まじか。刑務所ってこんなふうになってんだ!という普通に生活してたら一生気づきもしないような出来事や仕組みが、ものすごくわかりやすく描かれている。
そんでもって人間。
ガッチリとルールで固められた、そんな毎日を送っていると
唯一の楽しみが食事だけになっていき、会話の内容もとてもじゃないけど、おっさんとおっさんが話してるとは思えないようなものばかりになってくる。
「おい、聞いたか?来週、コッペパンらしいぞ!」
「まじかよ!いよっしゃぁぁあ!!!」
この前の〇〇会ではコーラが出たらしい。とか。
アルフォート?まじで?!・・次、アルフォートでんの?!とか。
見た目はおっさん。中身は少年。みたいな。
能力ゼロの逆コナンおじさんみたいな輩たちが繰り広げる会話が何ともいえない。笑
いいな。なんかいいな。この人たち面白いな。
というかこんな生活も悪くはないな。と思わされてしまう。
そして、この作品の全体に流れている根底的な良さは、作者の個人的な恨みみたいなものが一切のっていないとこにある。
あとがきにもチラッと書いてあったが、だいたい刑務所での生活を経た者がそこでの物語を舞台になにかを書き上げると
そのほとんどが「この理不尽さをわかってほしい」みたいな
ねえ聞いて。俺ね、こんなことされた。あんなことされた。ひどくない?(´;ω;`)
みたいな愚痴を含んだものがメインになってしまうことが多いらしい。
が、この作品にはそういったもの全くがなく、本当にただただその生活の中で起きた出来事や、そこでの仕組みが淡々と描かれている。
なのに何でか笑ってしまう。
作者のユーモアのある捉え方と描き方がページをめくる度に本からこぼれだす。
良いなー。
どんな状況でもユーモアをもって人や物を見れるように、私もなりたいな。
あ。そうそう!
実はこの刑務所の中。続編があって。
刑務所の前。も、めちゃめちゃ面白いんで、おすすめなのであります。
いかにして刑務所に入ったのかとか。そしてそれと並行して描かれる作者が漫画家として描くストーリーが何ともいえない味を醸し出している。