【ぼくをさがしに・シルヴァスタイン】
ついこの前、大きめの本屋をうろうろしていたところ妙な看板を見つけた。
「大人の絵本コーナー」
天井から吊り下げられた看板には大きな文字でそう書かれていた。
お、おとなの絵本・・・。大人専用の絵本。
あなたこそ本当の大人です。と認められた者にしか開くことを許されていない絵本・・・。
なんだ?エロいのか?ちょっとおばちゃんに見してみなさい!
そんなことをブツブツ思いながらもまんまとそのコーナーに吸い寄せられた私は、一冊の見覚えのある表紙に目が止まった。
あれ?これ、昨日るいちゃんが言ってたやつじゃん。
それは本当につい昨日、小学校からの友達のるいちゃんに
「これ知ってる?なんか会社の人に勧められたんだけど、気になってさ。」と、チラッと見せてもらったものだった。
不思議だな、と思う。でもたぶん本にも縁がある。
そしてそれはきっと今だと思ったから、ちょっと高いなぁとは思いつつ私はそれをレジまで持って行ったのだった。
【ぼくを探しに:シルヴァスタイン作】
本を開くとまず目に映るのは、落書きのような線と点で描かれたまーるい顔と、その横にポツリと置かれている文字達だ。
〝だめな人と、だめでない人のために ”
〝何かが足りない、それで僕は楽しくない。足りないかけらを探しに行く。”
主人公の「ぼく」は体の一部が欠けている。
僕はそこの部分をおぎなうために、自分にぴったりのカケラを探しに旅にでる。
雨の日も、雪の日も、ぼくはたくさんの寄り道をしながら、カケラを探す旅をする。
そして色んなカケラに出会うたび、自分の体にはめ込んでためしてみるのだが
そのサイズは思ったより様々で、大きすぎたり、小さすぎたり、中々自分にぴったりのものが見つからない。
ところがある日・・・どっからどうみても自分にピッタリのカケラを見つけてしまう。
やっとみっけたぞ!と思い、はめ込んでみると、それはビックリするほど、ぼくの肌によく馴染んだ。
そこからは全てが絶好調。
カケラがくぼみを埋めてくれたおかげで、前までは大変だった坂道も、前よりずっと速く転がることができた。
でも、あんまりに速くテンポ良く転がるもんだから、虫とお話しすることも、花の香りをかぐこともできずに、どんどんどんどん転がっていく・・・。
そしてぼくは気づいてしまうのだ。
カケラがはまったおかげで、できるようになったこともあるけど、できなくなってしまったこともある・・・と。
そして、その違和感をぬぐいさるように、ぼくはそっとカケラをはずし、また一人、旅を始める。
自分にぴったりの本当のカケラを探すために。
うーーーーーん。何とも言えない。
見る人や、手に取るタイミングによって、その感じ方はもちろん変わる・・・。
カケラは恋人なのか、仕事なのか、友人なのか、それともカケラ側が自分なのか。
ただ、私はそんな解釈よりも何よりも、冒頭の言葉に心を持ってかれてしまった。
だめな人と、だめでない人のために。
こんな優しい言葉があるだろうか。
だめな人を救う言葉は今まで腐るほど見てきたが、だめでない人を救うものは見たことがない。
だめでない人も、だめなのだ。
だめだから、みんな足りないから、だから探す。
自分のだめを埋めるために、誰かに頼るし、何かを探す。そうやってみんな生きてる。
これが大人の絵本・・・なのか~。
と、何だかわかったような気持ちでうんうん頷いているが、きっと10年後にこの本を開く私はまた別の気持ちでここを眺める。
そんな、一生をかけて何回も開くような長い付き合いをする本が人生に一冊はあっても良いのかもしれない。